秀吉の一世一代の「醍醐の花見」で知られる世界遺産の真言宗のお寺・醍醐寺。
平安時代初期874年の創建で、密教を中心とした祈り・加持祈祷で政治と結びつき、醍醐・朱雀・村上 父子三代の聖帝の帰依によって大きく発展してきました。
それ以降も、足利尊氏、義満などの室町将軍、そして豊臣秀吉の帰依、江戸時代の修験道興隆など、874年の創建以来、豊かな歴史と物語を育んできた大寺院です。
そんな醍醐寺の最大の年中行事が、毎年2月23日の五大力尊仁王会です。
全国から集まった延べ千人以上の醍醐は僧侶・修験道教師が、国の安全と人々の幸せのために、「七難即滅」、「七福即生」を全身全霊で祈りを込める法要です。
今年はコロナ禍で、屋台の数はかなり制限されたものの、それでも大変多くの参拝者の方々が集まっていました。
金堂の前には紅白の大鏡餅がずらりと並び、子どもも大人も参加する恒例の「餅上げ」大会の奉納もつつがなく行われていました。
その奥では、僧侶や修験道教師らが炊く火に、役目を終えたお札やお守りを一般の参拝者の方々が持って来て火にくべ、煙が大きくもくもくと立ち上っています。
一年で最も醍醐寺が華やぐこの「五大力さん」の日に、筆者は取材を敢行しました。
取材を受けて下さったのは、醍醐寺で国際文化交流担当のマネージャーの肩書を持つ、日本在住のフランス人ビジネスマンのジャン・バティスト・フォヴェル氏です。
日本の文化と歴史をこよなく愛するジャン・バティストさん。
フランスの方ならではの外部からの鋭い眼差しで、音声ガイド、インバウンド対応、そして話は醍醐寺のこれからについて、熱く語ってくださいました。
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1.音声ガイドの仕様について
1-1.醍醐寺の音声ガイド無料アプリ
まずは「醍醐寺ナビ」という音声ガイドなどが聞ける無料アプリについて、ジャン・バティストさんに伺ってみました。
実際のところ、「醍醐寺ナビ」はあまり周知されていないようで、ダウンロードの数がそれ程伸びず、またお寺側の情報の更新も滞りがちだとのことです。
そもそも、こうしたデジタル・ツールの導入が、少し早すぎたと感じられているようです。お寺側が、そのコミュニケーションツールとしての使い方をよく理解しないまま、実施してしまったとの事。
実施が時期尚早であったことに加え、これは筆者も大きく頷いたのですが、アプリをダウンロードすること自体が少々面倒…という障害がある、とジャン・バティストさん。
たしかに筆者も、スマホの容量問題、アプリをダウンロードして使いこなさねばならないというストレスや手間を考え、アプリタイプのスマホ音声ガイドを躊躇する傾向があります
自分がどうしても見たくて訪れる美術展、観光スポットなら、アプリタイプの音声ガイドをダウンロードして気合を入れて備えるかもしれませんが…。
1-2. 2次元コード読み取りのブラウザタイプではどうか?
それでは、観光スポットごとに2次元コードを読み取るだけでダイレクトにページにアクセスできる、スマホさえ持っていればすぐに音声ガイドを聴くことができるブラウザタイプならどうなのでしょう。
こんな疑問をジャン・バティストさんにしてみると、2次元コードの看板自体が、景観を損ねるかもしれない…という回答でした。
(これに関して少々フォローをしておくと、2次元コードを各スポットに置いておかなくても、1度パンフレットから読み取れば音声ガイドを順番に聞くこともできます。)
また、醍醐山の山頂から裾野へと広がる200坪に及ぶ広大な境内では、まだWi-Fi環境が整っていないという事情もあるようです。
これについては、今後のWi-Fi環境の境内全域への整備が待たれます。
1-3.タブレット型やICチップ式などのツールもある
それならと、画像、3D画像、動画、音声ガイド等が搭載されたタブレットを有料で貸し出す案もあったそうですが、これはコロナ禍の到来で立ち消えになってしまったとか。
このタブレット型は、醍醐寺と交流があるフランス・アヴィニョンの法王庁宮殿(ユネスコ)でも最近取り入れられたものだそうです。
そして最後に、現在検討しているのが、ICチップを建物や境内の木々などに埋め込む方法です。
これなら、各自の持っているスマホのBluetoothをONにすれば、情報をキャッチすることができるので、外国人参拝者向けWi-Fiの問題はクリアできます。
このICチップ式は、ジャン・バティストさんの母国・フランス・パリの某スタートアップ企業が開発中のものなのだとか。
ICチップ式のしくみは、例えば、お寺の金堂に参拝者が近づくと、ICチップが感知して、参拝者のスマホをビビッと震わせて知らせ、金堂の音声ガイド、画像などがスマホに現れるというものです。
醍醐寺の三法院のお土産屋さんでも、通るとまたもやビビッとスマホが震え、期間限定の商品を教えてくれたりします。
お寺側が苦労して商品化に至ったグッズについての情報も、これなら漏れなく参拝客の方々に伝わります。
今日の「五大力さん」のお土産でも、醍醐寺が西陣の老舗織物屋と共同して商品化した不動明王が背負う迦楼羅焔(かるらえん)モチーフのマスクの情報をビビっと伝えることができます。
こういった情報を必要とせず、何にも煩わされず参拝したい方は、お寺に入ってすぐ、Bluetooth機能をOFFにすれば解決です。
このように音声ガイドのツール一つとっても、様々な選択肢があるわけですが、醍醐寺は最適なツールを求めて現在、様々な案を検討中なのだそうです。
2.肝心なのはコンテンツの見せ方
2-1.ツールは変われどコンテンツは不変
けれども、ジャン・バティストさんいわく、重要なのは、「ツール」(ハード面)ではなく、コンテンツ(内容)だとのこと。
ツールは時代と共に変わっていくことは必然です。
スマホもなかった昔は、お寺のお坊様だったり、ベテランのガイドさんだったりが、お寺の歴史などを説明したり、はたまた音声カセットが鳴り響くようなお寺もあったわけです。
現在も、人気のお坊様による現地お寺案内ツアーが盛況な所もありますが、ツアーに参加する人ばかりとは限りません。
もっと広く、多言語で、より手軽に、ということが求められるようになった現在、ツールがどんどん開発されて変化しています。
しかしツールは変わっても、コンテンツは変わりません。
醍醐寺が積み重ねてきた歴史・文化・伝統は増えても、変わることはありません。
ただ、そのコンテンツをいかに伝えるのかが問題、とジャン・バティストさん。
2-2. コンテンツは立派なのに伝わっていない
1100年以上もの歴史を誇る醍醐寺は、平安、鎌倉、室町、安土桃山、江戸…と、すべての時代の建築物を有するたぐい稀なお寺です。
伽藍のみならず、明治の廃仏毀釈の嵐の中でも、一切の宝物を、一紙に至るまで流出させることなく守り通してきたお寺です。
伽藍・寺宝すべてが、タイムカプセルのように現代にまるごと受け継がれているのです。
けれども、ジャン・バティストさんいわく、アピール、コミュニケーション不足で、これほど豊かな文化財がそれほど知られていないのだとか。
これは、大変残念で、まさに宝の持ち腐れと感じる、と。
例えば、京都府下最古の木造建築物で951年に完成した醍醐寺の五重塔。
1000年前以上の平安時代の五重塔が、未だそこに建っているということだけでも恐るべき偉業のわけですが、なかなかその凄さをわかってもらえない。
醍醐寺を訪れた外国人観光客に、「この五重塔、1000年も前に建てられたものなんですよ、すごいでしょ…!?」と言っても、なぜか反応がいまいち。
けれどもここで一言、「この五重塔の構造、東京のスカイツリーの設計者も参考にしているんですよ」と付け加えると、外国人観光客の方もにわかに身近に感じられるようになるのだとか。
634メートルもあるスカイツリー。高さも使える資材も五重塔の時代のものとは比べ物になりませんが、構造は、千年以上も前に建てられた五重塔を参考にしている、確かに驚きです。
昔の日本人の技術力はそれほど高かったのか…!となります。
当時の技術力の結晶である五重塔が、その無敵の堅固さを証明するかのように、地震大国日本で千年以上も存在し続けている不思議。こうなると、その偉大さに素直に納得できるのです。
2-3.響くプレゼンでコンテンツを引き立てるべし
こうしたエピソード、裏話も交えつつ、既存の豊かなコンテンツを現代風にアレンジして「響くプレゼン」を創ることが求められている、とジャン・バティストさんは考えているわけです。
醍醐寺の魅力がうまく「伝わるプレゼン」は、現在も模索中とのこと。
海外からのゲスト・参拝者の最初の窓口となる、お寺のホームページのコンテンツを、どのようにこれから変えていくのか。
何をピックアップして、どう伝えるのか(何を発信するのか)。
そういったことを、このコロナ禍の比較的静かな時を活用して、検討中なのだそう。
コンテンツをどうアピールするかが定まれば、あとはそのときどきの時代を要請するツールに乗せて発信するばかりです。
3.守る・伝える・創る(イノベーション)そして、新たに創ったものも守る、この循環
3-1.「響くプレゼン」を駆使してアクティビティやイベントを創造
「響くプレゼン」は、なにも音声ガイドやHPのコンテンツだけにとどまりません。
1100余年の歴史と伝統の生ける証人である醍醐寺の伽藍とその国宝重文あまたの文化財。
境内は、醍醐の花見で知られ秀吉設計の庭を有する三宝院・金堂・五重塔、霊宝館等々を包含する「下醍醐」エリアと、醍醐山の頂上へと向かう斜面一帯を指す「上醍醐」エリアと、2つのエリアから成り立ち、総敷地面積200万坪に及ぶ広大な寺域を誇ります。
同じ京都の世界遺産、清水寺、金閣寺等々と比べて、醍醐寺は劣るどころか、こうした観光・文化資源を活用した場合、一日かけて参拝しても足りないくらいのお寺なのです。
醍醐寺の観光・文化資源のポテンシャルは限りなく大きいのです。
歴史の荒波を乗り越えて守られてきた醍醐寺の貴重で豊富な文化資源を守るだけではなく、それをいかに現代人に響くようなアクティビティやイベントとしてアレンジ・提案できるのか。
ここでも「響くプレゼン」が問われるのです。
3-2. 「醍醐寺」というテーマパーク
醍醐寺の尽きせぬ文化資源から、いくらでもアクティビティやイベントのテーマは出てきます。
素人目にも、上醍醐へのハイキング、お寺ならではの座禅、秀吉の設計したお庭のある三法院でのお茶席、写経(カリグラフィー)、密教美術鑑賞、等々。
「醍醐寺」というテーマパークで一日、お寺文化、日本文化体験を満喫できそうです。
元来、お寺とは修行の場であると同時に、祈りや会合、儀式やイベントのために人々が集う場所です。
お寺は人々の心の拠り所であり、人々が集い文化を育み、伝える文化施設としての役割が求められてきました。
グローバル化が進み、世界各地からやってくるようになった観光客に対しても、こうした役割が果たせるよう変化・創造していくことが求められています。
3-3.醍醐寺の斬新な取組み「守る・伝える・創る」
そして、既存の文化資源の「響くプレゼン」には、時に新たな創造も伴います。
ジャン・バティストさんによると、醍醐寺の現在のミッションとは、「守る・伝える・創る(イノベーション)」に尽きるだろう、とのこと。
じつはこうした「創る(イノベーション)」に関して、醍醐寺はすでに様々な斬新な取り組みを行っています。
一例を挙げれば、醍醐寺の霊宝館の庭には、「ル・クロ・スウ・ル・スリジエ」というフレンチカフェがあり、薬膳料理とフランス料理が融合したお食事を楽しめます。
密教美術の至宝を霊宝館で堪能した後、春には秀吉の醍醐の花見を髣髴とさせる枝垂れ桜が美しい庭園と霊宝館を窓越しにフレンチカフェでほっと一息。
フランス文化との粋なコラボレーションによって、現代ならではの「醍醐の花見」が楽しめます。
ちなみに、醍醐寺とフランスとの縁はこれにだけとどまりません。
世界遺産アビニョン法王庁宮殿を有するフランス・アビニョン市との文化交流のコラボレーションのプロジェクトが現在進行中のようです。
加えて、日仏経済交流委員会(CEFJ)が主催する日本とフランスのイノベーターに注目した企業交流会でも、醍醐寺は積極的に発言し、寺院をグローバルな交流とイノベーションの場として提供する意向を示しています。
新たな時代に寄り添い新たに生まれた縁を基にして「創り」、そしてそれを再び新たな伝統として紡ぎ「守る」、こうした循環が生まれます。
終わりに・・・ 「宇宙」時代に向けて
醍醐寺の新たな創造の試みは地球規模にとどまらず、なんと、宇宙にも向けられています。
京都大学発の宇宙ベンチャー・テラスペースとの合意で、2023年、醍醐寺はご本尊や曼荼羅を搭載した人工衛星を打ち上げる計画があるのだそうです。
宇宙寺院の名称は「浄天寺劫蘊寺(じょうてんいんごううんじ)」で、宇宙鎮護をかかげて高度400km~500kmの地球低軌道上に建立されます。
人類が宇宙に進出する今の時代なのだから、宇宙にも心の拠り所となる寺院が必要との認識から生まれた試みです。
音声ガイドから始まった取材は、多言語、インバウンド対応、グローバルな交流とイノベーションの場としての寺院へと広がり、最後には地球を飛び出し宇宙にまで辿り着きました。
醍醐寺の先進的・革新的な取組みは、これからも目が離せません。