取材日:2020年6月
京都の奥座敷とも呼ばれ、夏の風物詩・川床でも有名な貴船神社は、水の神様や恋愛の神様をお祀りし、人と人との「縁」を取り結んでくださる人気のパワースポットです。
貴船神社は3年ほど前からA社のスマホ音声ガイドを導入しています。
今回は貴船神社・禰宜の高井様にお会いし、スマホ音声ガイドの導入のきっかけ、制作の経緯、その効果と将来性など、非常に示唆に富んだお話を伺うことができました。
スマホ音声ガイドのミュージアムガイドは、制作費や運用維持コストが非常にリーズナブル。また制作期間も短期間なので美術館や水族館はもちろんイベントなどにも最適!
1.スマホ音声ガイド導入のきっかけは?
1.1 名物「水占みくじ」にQRコード翻訳を提供したのが始まり
貴船神社が神社全体のスマホ音声ガイドを導入したのは今から3年前の2017年のこと。
けれども、実はそれに先行して、名物「水占みくじ(みずうらみくじ)」で、QRコードによるデジタル化を取り入れていました。
「水占みくじ」は、水の神様をお祀りする貴船神社独特のもの。
何も書かれていない水占みくじを山中からこんこんと湧き出るご神水(飲料水として飲めます)に浮かべ、水がおみくじに浸み込んで文字が浮かび上がってくるというシステムで参拝者の方々にも好評です。
外国の方にも大人気の貴船神社、おみくじの内容を翻訳で知りたいという声が多く、以前は神社の方が身振り・手振りで対応していたそうです。
けれども紙媒体などにすると在庫ストック管理、受付の方の仕事などが煩雑になって大変になります。
そこで導入したのが、スマホQRコードによるおみくじ内容の翻訳です。
これにより、おみくじに付いているQRコードにスマホを読み取ると、内容が英語・中国語・ハングル語等に翻訳されます。
受付の方の対応も歴然と減り、翻訳もプロの方の翻訳でわかりやすく大助かりと、よい事づくめだったそうです。
1.2 神社全体へのスマホ音声ガイド導入の経緯、コンテンツ作成
このQRコード付「水占みくじ」でデジタル化の利便性を実感された貴船神社。
それからしばらくして、某企業の仲介でスマホ音声ガイドを制作しているA社を紹介され、スマホ音声ガイドの制作を提案してもらえたのだそう。
スマホ音声ガイドの種類は、Android、iPhoneどちらにも対応しています。
そのコンテンツは専業ナレータ―によるナレーションが聞ける他、画像や文章でスマホ上で目で追うこともできます。
音声ガイドのポイントは全部で12か所あります。
縁結びの物語、水の神様が縁結びの神様である由縁、感謝の心がお参りの本質、貴船口駅から始まる林道(和泉式部も通った恋の道)フォトスポットの灯篭の石段、御神木、船形の庭、社殿、結社、奥宮前の沢、奥宮の龍穴伝説、船形石です。
こうしたポイントの選定は、貴船神社側とA社で話し合って決めたそうです。
ほぼ神社の境内すべてと、貴船口駅から神社までの林道についてもカバーしています。
2.スマホ音声ガイド導入の効果は大きく2点
2.1 効果① 訪問者それぞれに最適なガイディングを提供
スマホ音声ガイド導入のメリットは幾つかあり、デメリットは今のところ感じていらっしゃらないとか。
通常、寺社仏閣では、由緒や説明のパンフレットや、もしくは主要スポットに看板があり説明があります。
特にパンフレットは、詳しくすればいくらでも詳しくできますが、そうなると枚数もかさばります。
けれども様々なタイプの参詣者がおり、神社の説明はサラっと程度でよいという人もいますし、各所を詳しく歴史を知りたいという人もいます。
そんな時、スマホ音声ガイドなら、サラっと派は知りたい所や興味のあるポイントのみを選択して聞けばいいですし、詳しく知りたい派はすべてのポイントで一つ一つ丁寧に聞いていくでしょう。
また、後から追加の情報を加えることも可能です。
長すぎず短すぎもしない理想のパンフレット、訪れた人がそれぞれにちょうどいいガイディングを楽しめるのが、スマホ音声ガイドの大きなメリットではないかとのこと。
2.2 効果② 美観と資源の節約効果も
2.2.1 スマホ音声ガイドの普及で看板が不必要になっていく?
もう一つのメリットは、スマホ音声ガイドがより普及することで、主要スポットごとに設けた看板での説明書きが必要なくなっていくかもしれないということ。
余計な看板がなくなることで、これまで以上に美的景観に配慮ができるようになるのではないかということなのです。
たしかに、例えば、貴船神社はかつて、気が生まれる場所であるとして、「氣生根」(きふね)と表記されていたそうなのです。
その氣が湧き出ている様子を表すとされる樹齢400年の桂の木の「御神木」が本宮下に立っています。
しめ縄をまかれたこの御神木の前には、由緒書きの木の看板があります。
けれどもこの看板がなくなれば、しめ縄を巻かれただけですくっと立つ御神木を拝んだり、撮ったりすることができるわけです。
もちろん、すべての人がスマホを使っているわけではないですし、現時点では看板をすべて撤去するというのは現実を無視した無理な話です。
けれども、スマホ等によるデジタル化で美的配慮がさらに行き届くようになるかもしれないというのは、大変示唆に富んだご指摘だと感じました。
2.2.2 貴船神社のデジタル化の他の例:案内版
高井様のお話を伺った後、改めて貴船神社の境内を周ってみると、このようなデジタル化はスマホ音声ガイド以外の部分にもみられます。
例えば、本宮に至る灯篭で有名な石段の参道の入り口には、景観になじむような形でデジタルスクリーンが案内板として設置されています。
この画面をタッチして選択することで(日本語と英語が選択可能)、参詣者は境内の地図を見たりご由緒やスポットごとの簡単な説明を読んだり参拝方法や祭事情報を知ったりと、この画面一枚で様々な情報をゲットできます。
つまりこの一枚で、パンフレット何枚分もの情報が、しかも参詣者のニーズに応じて提供されるようになっているのです。
かさばるパンフレットと比べると、これは大きな資源の節約になり、環境保全にもつながっていきます。
2.2.3 参詣者の方のマナーもよくなるかも?
こうして考えてみると、デジタル化はスポットごとの説明書きを最小化したり景観になじませることで、景観が持つ本来の美しさを最大限に引き出す最高の武器になっていくのではないでしょうか。
人は美しいものに感動します。
美しい場所を訪れると、その美しさを損なわないようにしようと、参詣の人々もおのずと背筋が伸びます。
高井様によると、貴船神社を訪れる人は目的意識が高く、きちんとマナーを守れる方が多いのだそうです。そのため、京都の市街地の観光客に溢れる神社仏閣に近年ありがちな問題は余りないのだとか。
富裕層の方の訪れが多いのも頷けます。
聖なる自然の持つパワーと、デジタル化を進めるなどの神社のたゆまぬ配慮と努力が相まって、こうした好循環を創り上げているのかもしれません。
3.実際にスマホ音声ガイドを使用して貴船神社を周ってみた
3.1スマホ音声ガイド使用の手順
高井様の貴重なお話を伺った後、実際にスマホ音声ガイドを使用して貴船神社を周ってみました。
スマホ音声ガイドを聞くために、あらかじめMyイヤホンも持参してきています。なお、スマホを持っていない方は、神社の受付でiPhoneを借りることもできます。
まず本宮前にある、スマホ音声ガイドの看板にあるQRコードをかざして、自分のスマホ(筆者のはAndroid)にアプリをダウンロードします。
指示に従って、クレジットカードで料金370円(2020年6月現在)を払います。
全部で13あるコンテンツを再生してスマホで説明のナレーションを聞きます。
一つのコンテンツが終わると次のコンテンツが出てきて、最後までそれに沿ってガイディングを聞くことができます。
とくにナレーション番号が各ポイントごとに設置されているというわけではありません。
貴船神社全体のマップについては、前項で取り上げた入り口のデジタル画面での地図をスマホで撮ってもよいですし、紙媒体のマップを神社の受付でもらうこともできます。
3.2スマホ音声ガイドを実際に使用した筆者の感想
ナレーションと並行して、スポットごとの美しい写真と文章が目でも追えて確認できるので、使い勝手がよく感じました。
ガイディング内容も、ありきたりの由緒や歴史を羅列するようなものではなく、ガイディング執筆者の方の貴船神社への深い理解が伝わってくるオリジナルの文章。そしてなによりも、耳からガイディングが聞けると、身体が自由になりますので、より一層周囲の環境をダイレクトに感じることができてよかったです。
本宮から奥宮へ、その途中の縁結びの神様「磐長姫」をお祀りする縁結びスポットとして人気の結社まで、初夏の新緑の中、マイナスイオンを感じながら心身ともに清められるようなお参りを満喫することができました!
スマホ音声ガイドのミュージアムガイドは、制作費や運用維持コストが非常にリーズナブル。また制作期間も短期間なので美術館や水族館はもちろんイベントなどにも最適!
まとめ スマホ音声ガイドをはじめ、デジタル化の将来への展望
いかがでしたでしょうか?
今回、筆者が貴船神社を取材させていただいて感じたのは、スマホをはじめとするデジタル化による大きな創造性と将来性でした。
スマホ音声ガイドを使うと身体が解放され、五感の隅々まで、貴船神社の持つパワーがより沁み込んでゆきます。
参詣者それぞれにパーソナライズされたちょうどいいガイディングが楽しめます。
デジタル化がさらに進んでゆけば、境内の美観が改善し、訪れる人はその場が持つ本来の霊力がより強く感じられるようになります。
スマホを使った新たな創造が、これからも貴船神社で生まれてゆくことでしょう。