補助金・助成金を活用した多言語音声ガイドPart 2 ~ソフト面をどう充実させるか?~

Part.1では、文化庁や観光庁などの政府や各地方自治体による「補助金・助成金」の出る多言語解説整備支援事業などを紹介し、資金調達というハード面の問題解決に迫ってきました。

今回このPart.2では、文化財・地域・観光資源等による多言語解説の整備がどういった場面で必要になってくるのか、特にどういった場面で多言語音声ガイドの整備が必要になるのかに焦点を当てて、解説いたします。

事例として、寺社仏閣でのQRコードを利用した多言語音声ガイドや3Dコンテンツ事例、史跡等における多言語音声ガイド・スマホアプリ事例、QRコードを使った町の著名な観光スポットでの解説やまちあるきでスマホを利用した音声ガイドの事例を紹介いたします。

こうした多言語音声ガイドの解説は、観光客に無料で提供されていることが多いです。また、最後に「日本遺産」制度による、新たなまちづくりと地域・観光振興、それを担保する観光インフラ整備にも触れたいと思います。

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1. QRコードを利用した多言語音声ガイド・3Dコンテンツの事例

世界遺産に指定されている京都の仁和寺では、QRコード付きの解説看板が広い境内の主な見どころに配置されています。

これは、文化庁の平成30年度と令和元年度の「文化財多言語解説整備事業」に採択されて整備されたものです。

仁和寺でも特に、内部を拝観できない建物である、金堂、観音堂、経蔵、五重塔などは、建物の前の解説看板のQRコードに自分のスマホをかざすことで、映像と日・英・中・韓の4か国語の音声ガイド解説、そして建物内部の3Dを楽しむことができます。

また、この3Dは自分のスマホの画面を手で動かすことができ、絢爛豪華な内部装飾や仏像群を様々な角度から見ることができます。

2. 史跡等における多言語のスマホ音声ガイド事例

史跡における多言語音声ガイドのスマホアプリには、「なら平城京歴史ぶらり~奈良時代へタイムトリップ~」があります。

奈良県の提供する「ちずぶらり」を利用し、民間企業と奈良県が共同で開発・提供するもので、2014年度のグッドデザイン賞も受賞しています。

今から1300年前の奈良時代の平城宮跡の主要な建物やスポットがVRで再現されており、自分のスマホにアプリをダウンロードして様々な体験ができます。

GPS機能を使用することで、当時の平城京を再現したVRマップを自分のスマホ上で見ることができ、現在地が表示されます。また、要所要所に阿倍仲麻呂などの歴史上の人物が「語り部」となって登場し、歴史ストーリーを音声ガイドでわかりやすく解説し、かつての平城宮内を見学でき、地図上には、おすすめルートも表示されます。

CGを利用した当時の貴族の生活を再現する動画もあり、盛りだくさんのコンテンツで、言語は日・英・中・韓の4か国語に対応となっています。

このアプリの内容と同じコンセプトのものに、宮城県多賀城市の「歴なび多賀城」や京都府向日市の長岡京史跡のアプリ「AR長岡宮」があり、いずれもARやCGなど最新技術を駆使したスマートフォン用史跡アプリです。

また、江戸城天守再現アプリ「よみがえる江戸城天守」もあり、これは文化庁の文化財多言語解説整備事業の助成金を受けて令和2年3月に完成したばかりです。

3.「まちあるき」によるQRコード利用の多言語解説

京都や奈良といった観光都市では、すでに町中の主要な観光スポットの解説看板にQRコードがあり、それを自分のスマホで読み取ると、端末の使用言語を自動的に認識し、自分の言語で解説文を読んだり、動画が見られたり、時には音声を聞いたりすることが当たり前になってきています。

多言語対応のみならず、障がい者の方には情報が読み上げられる音声読み上げ機能を持つなど、バリアフリー的な価値を付与しているものもあります。

こうしたQRコードを利用した多言語解説の他に、自分のスマホにまちが提供するアプリをダウンロードして、主要観光スポットで多言語音声ガイドを聞くことができるものもあります。

たとえば、「日光街歩きナビ」は観光情報と防災情報が一体となったスマートフォンアプリで、日光市と民間企業が共同で開発したものです。

まち歩きルートの推奨、地図画面とARカメラ画面上での誘導機能、イラストマップによる世界遺産の「日光の社寺」の主要スポットの紹介、閲覧数の多い観光スポットをランキングして表示する機能などがあります。

また、防災情報としては、大規模地震の際の想定震度や予想到達時間を表示し、最寄りの避難所に誘導してくれる機能なども備えています。

対応言語は日・英・中・韓の4か国語で、外国人観光客の日光散策に役立っています。

4. 観光庁の多言語整備事業「まちあるき」の満足度向上

観光庁ではPart.1でみたように、様々な多言語解説整備支援を行っています。

中でも「ICT等を活用した多言語対応等による観光地の『まちあるき』の満足度向上」という事業があります。

この事業の令和2年度の予算は25億3500万円の内数となっており、多言語音声ガイドに関する対象事業として、「まちなかの周遊機能の強化(まるごとインバウンド対応)」があります。

これは外国人観光客向けに、多言語表示の充実・改善を図るもので、例えばQRコード等の二次元コードを活用した多言語による音声ガイドや観光案内の標識整備などがあります。 こうしたものは、スマートフォンを持っていればすぐに、外国の方でも、観光スポットで歴史的・文化的解説を知ることができ大変便利で、まちあるきの満足度の向上にも関わってきます。

5. 文化庁による「日本遺産」事業&まちづくり・観光インフラ整備

こうした「まちあるき」型観光への外国人観光客の集客や満足度アップを目的とした取り組みを、じつは特に文化庁も推進しています。

「まち」、もしくは一つのストーリーにまとめられた「地域」を、全体としてパッケージ化して、地域・観光振興を進めていこうとする試みは、文化庁が音頭を取って推進してきた「日本遺産」事業に特に顕著に見られます。

以下に、「日本遺産」制度について少し解説したいと思います。

「日本遺産」事業は、当時の文部科学大臣だった下村博文衆議院議員が、平成26年度に考案した制度で2015年から推進・実施され、現在(令和2年8月)、「日本遺産」は104件認定されています。

文化庁HPによると「日本遺産」とは、「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産」(Japan Heritage)として認定し、ストーリーを語る上で不可欠な魅力ある有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する取組」であるとされています。

従来の文化財指定や世界遺産が保存重視であったのに対し、「日本遺産」は地域に点在する文化財群をまとまりある「面」として捉えて新たな価値づけをし、ひとまとまりにパッケージ化します。

そうした上で、地域全体として一体的に整備・活用し、国内外へ積極的かつ戦略的・効果的な発信・PRをしてゆこうとするものです。

この構想の根幹には、「地域ストーリー」の構築があります。

「日本遺産」の事例として、「海女に出逢えるまち 鳥羽・志摩 ~素潜り漁に生きる女性たち~」(鳥羽市・志摩市(三重県))といった、比較的ピンポイントのスポットがセットになっているものがあります。

また、「きっと恋する六古窯―日本生まれ日本育ちのやきもの産地―」(備前市、越前町、瀬戸市、常滑市、甲賀市、丹波篠山市)など、一つのテーマの下に日本各地の複数の地域をまとめたケースもあります。

これらの共通点は、地域の文化財をまとまりある群として捉え、それを魅力あるストーリー(物語)で貫き、新たな価値を見出し、まちづくりに活かしていくということです。

つまり、「日本遺産」制度によって、まちや地域をブランディングした上で、そこで暮らしている住民や観光客にとって、魅力あるまちや地域として発信していくということになります。

このような看板を引っ提げてPRを行い、それに魅力を感じてやって来た国内外の観光客の期待に応え、満足度の高い観光や体験をしてもらうためにも、まちや地域の観光スポット解説を多言語化・デジタル化していくことは欠かせません。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

「日本遺産」制度に登録していなくても、意欲的にまちや地域独自のテーマや物語、あるいはお宝を見つけて、新たなまちづくりのヒントにしていくことはいくらでもできるでしょう。

また、歴史や文化は今現在も紡がれ続け、古都だけの独占物ではありません。

現代の漫画、アニメ、映画、ドラマ、小説などの作品の舞台になった場所を巡る「ロケ地めぐり」、「聖地巡礼」も今では重要な観光コンテンツです。

それすらもないなら、誘致してこれから創出してゆくことだって可能です。

自分たちの町や地域が持つ新たなコンテンツを充実させ、磨きをかけながら、それを多言語で海外にも発信してゆく。

こうした観光インフラのデジタル資産を、国や地方自治体の助成金を活用しながら、どんどん進めてゆきたいものです。このような投資は、自分の住む町や地域の新たな魅力の発見となり、それは地域の誇りともなっていきます。ただ、多言語解説では、外国人目線でわかりやすく、かつ質の高いストーリーで展開した説明を心掛けたいものです。

功を奏してせっかく訪れてくれたのに、「がっかり遺産」になってしまっては、元も子もありません。

日本史や文化的背景にあまり知識のない訪日外国人旅行者にどのような翻訳が最適なのか、直訳ではない丁寧な解説と適切な翻訳が求められます。

せっかく日本に興味を持って来てくれた外国の方々のおもてなしの一環としても、文化・観光資源の多言語音声ガイドや解説等による受け入れ環境の充実は、今後ますます必要不可欠なものになっていくでしょう。

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