「各々方、討ち入りでござる」
明け方の吉良邸への討ち入りでクライマックスを迎える、ご存じ『忠臣蔵』。
主君の仇・吉良上野介を討った赤穂浪士四十七士が、最後に向かった先が、主君・浅野内匠頭が眠る東京・高輪の泉岳寺でした。
その泉岳寺に、赤穂義士の逸話を盛り込んだスマホ音声ガイドが導入されるということで、泉岳寺の僧侶である鎌田さまにお会いし、その経緯を伺うことができました。
コロナ禍の真っ只中で、どういった経緯でスマホ音声ガイドの導入は決まったのでしょうか?
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音声ガイド導入のきっかけは?
1-1 抱えていた悩み
赤穂義士ゆかりの地、泉岳寺には日本の歴史ファンはもちろん、近年は海外の映画やメディアでも取り上げられ、国外からの参拝者も多く訪れています。
そういった参拝者に少しでも赤穂事件やそれに関わった人々、また泉岳寺の役割などを理解してもらおうと、これまでも境内図や解説の立札、パンフレットなどを用意していました。
しかし現実には、本堂に参拝し赤穂義士のお墓に手を合わせながらも、彼ら自身がどのような人物で、どのような経緯で赤穂事件が起こったのかなど、分からないまま帰られる方も少なくありませんでした。時間が取れ、僧侶が直接境内を案内した際には「詳しく知ることができて良かった」と喜んでくれる参拝者はいたものの、全ての参拝者に対応することなどはもちろんできません。
こうした現状に泉岳寺では「せっかくお参りに来られたのに、これでは非常にもったいないし、責任を感じる」、そういう思いを強くしていたそうです。
1-2 ヒントはバスでやって来た
教科書のような解説を読むのではなく、参拝者に楽しんでもらいながら理解を深めてもらうにはどうしたらいいのか。そのヒントは、ある日泉岳寺にやってきたバスツアーにありました。
それは『講談師とめぐる江戸の名所ツアー』といったもので、バスガイドの代わりに講談師がツアー客を引率し、江戸の名所をその名調子とともに案内して周るという人気のバスツアー。その案内をツアー客と一緒に聴いてみると、さすがに江戸時代から多くの『忠臣蔵』のエピソードを語ってきた講談師だけに、その内容は詳しく、何より聴いていてとても楽しいものだったそうです。
こうして「楽しく学べる音声ガイド」作りが始まりました。
コロナ禍における音声ガイド制作
2-1 コロナ禍という障害
2020年2月、さっそく博物館の音声ガイドを制作しているA社を訪ね、アイデアを具体化する話し合いに入ります。当初はオーソドックスに視聴用の専用機器を導入する前提で話は進み、機材の保障費用やバッテリー交換などメンテンナンス費用、またメンテナンス作業は泉岳寺側で行う予定だった為、その人手はどうしようか。そんなことを考えていた矢先にやってきたのが、新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威でした。
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染経路としては、早くから飛沫感染と接触感染が挙げられていました。音声ガイドの導入は、対面での案内による飛沫感染は減らせるが、専用機材を介しての接触感染は避けられません。またこれを予防する為に専用機器を入念に除菌する手間なども考えなければならず、泉岳寺の音声ガイド導入計画は暗礁に乗り上げてしまいました。
2-2 スマホ音声ガイドという選択
それからしばらく経った6月、解決策と出会います。
それは専用機器を使用せずに音声ガイドを聴く方法、『スマホ音声ガイド』の存在でした。鎌田さまはさっそくインターネットで検索し、都内でスマホ音声ガイドを手がけるT社へと連絡を取ります。
T社の提供する『スマホ音声ガイド』は、まさに今回抱えていた問題をクリアするものでした。その最大の特徴である「利用者が自前のスマートフォンを使って音声ガイドを聴く」という点によって、最大の障壁となっていた新型コロナウイルス(COVID-19)の接触感染のリスクをほぼ無くすことができます。
またこれは同時に、専用機器の保障費やメンテンナンス費用、作業人員の確保など諸々のコスト面からも解放されることも意味しており、この点でも大きく背中を押されることとなりました。
2-3 そして制作へ......!
いよいよT社と連携してのスマホ音声ガイドの制作が始まります。
まず、今回の音声ガイドで重要な役割を務める語り手を講談師の宝井琴調師にお願いすることができました。泉岳寺側で作成した原稿に琴調師がアレンジを加えるかたちで制作を進めることができ、その結果、講談独特の語りを存分に活かした「楽しく学べる音声ガイド」の下準備が整いました。
次に琴調師にT社収録スタジオに来てもらい、仕上がった原稿をもとに収録、さらにそこへ泉岳寺で収録した拍子木の音を掛け合わせて音声データが完成します。
また、当日現地に来られた方だけに聴いて頂けるように、アクセス制限機能を設けてスムーズな運用ができる公開ページも用意。
こうして12月14日、赤穂義士討ち入りの日に、泉岳寺スマホ音声ガイドが公開されました。
泉岳寺のスマホ音声ガイドをつかってみた!
鎌田さまより導入の経緯などを伺った後、実際にスマホ音声ガイドを自前のiPhoneを片手に周ってみました。
泉岳寺のスマホ音声ガイドはいわゆる『ブラウザタイプ』、受処にてスマホでQRコードを読み込むだけで手軽に音声ガイドページを開くことができます。
ページを開き、まず最初に目に入るのは、趣のある山門の写真。そして各音声スポットの写真と再生ボタンだけという間違えようの無いほどのシンプルさ。
音声コンテンツは全部で21本あり、総収録時間は約30分。1本あたりが大体1~2分にまとめられています。
音声ガイドは語り手の宝井琴調師に案内されながら、泉岳寺の山門から始まり四十七士のお墓参り、ゆかりの品々の見学、本堂へと巡っていきます。ゆっくり周っておよそ90分。まさに観光ツアーに参加しているような時間でした。
音声ガイドはさすがプロの講談師。独特の口調とテンポが耳に心地よく、自然と引き込まれていきます。解説の内容も堅苦しいものはなく、当時の人々のエピソードや豆知識、当時の人々さながらのセリフなどもユーモアを交えて語ってくれます。聴き終わった後には、もっと聴いていたい、と思わせるほどあっという間の時間でした。
スマホ音声ガイド 導入のメリットを考察
さて、それではここで今回の泉岳寺スマホ音声ガイドの特徴やメリットについて考察してみたいと思います。
3-1 アフターコロナ時代のスタンダードになるか!?
まずは、まさに今回泉岳寺にスマホ音声ガイドが導入される決め手ともなった、非接触で音声ガイドを提供することができ、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大防止策になるという点が大きいと思います。
現在、ワクチンの開発・供給が進んではいますが、感染症に対する人々の意識はもうコロナ禍以前の状態に戻ることはなく、また観光客などを迎える側としても同様の問題が発生することを考慮しての環境整備は避けられません。
スマホの普及率やスマホを活用した関連技術の進歩と合わせて考えても、スマホ音声ガイドの導入率はどんどん加速していき、アフターコロナの時代のスタンダードになる日も遠くないのではないでしょうか。
3-2 『シンプル・手軽』が音声ガイドの利用率を向上する
泉岳寺のスマホ音声ガイドは、QRコードを読み込めば直ぐに再生可能な『ブラウザタイプ』が採用されていましたが、音声ガイドの利用率向上の為には、この手軽さこそが重要だと筆者は考えます。
例えば、『アプリタイプ』の音声ガイドだった場合。『アプリタイプ』にはさまざまな機能や表現の自由度が高いという利点がありますが、同時に専用アプリのダウンロードが必要という条件が発生してしまいます。このアプリのダウンロードというのが、意外と高いハードルになることが多いのです。
想像してみてください、買い物先でお得なクーポンやスタンプを勧められても、アプリをダウンロードするのが面倒くさかったり・スマホの容量不足で断念したことなどはありませんか?アプリをスマホに入れるという行為は、意外と心理的なハードルが高い行為なのです。アプリでなければならない理由がない限り、QRコードを読み込むだけの『ブラウザタイプ』と比較するのであれば、どちらが利用率が高いのかは、明らかではないでしょうか。
また、スマホ音声ガイドはユーザーとスタッフとの接触機会を減らす意味からも「ユーザーが自身でアクセスし、操作し、聴く」と単体で完結することが望ましいわけですから、その操作も説明が不要なほどにシンプルであることが望ましいと思います。
この視点から泉岳寺のスマホ音声ガイドを振り返ると、スポット写真と再生ボタンを上から並べると実にシンプル。うっかり親切心で入れそうになる「ボタンを押してください」などという余計な説明もなく、見れば分かるデザインに仕上げ、音声ガイドを利用するまでのハードルを可能な限り下げています。
また音声ガイドの作り自体のシンプルさに加え、語りに講談師を起用する、といった合わせ技で、泉岳寺では音声ガイドを利用したくなる環境を作り上げています。これは「多くの参拝者の方に楽しんでもらいたい・知ってもらいたい」という音声ガイド導入のそもそもの趣旨にピッタリの選択だったといえるのではないでしょうか。
3-3 新たな音声ガイドのあり方、来場者へ積極的なアプローチ
泉岳寺のスマホ音声ガイドでは、講談師が見どころを順番に語る、というスタイルによって様々な面で参拝者を引き寄せます。
①まず、「どんな音声ガイドか聴いてみたい!」と参拝者の興味を引き寄せ(企画)
②次に、ツアーという流れに乗せて、自然と順路通りに参拝者の足を引き寄せ(構成)
③そして、見て欲しいスポット(作品)の注目して欲しいポイントへと参拝者の目を引き寄せる(原稿)
ことができいます。
これは従来の案内図やパンフレット、立て看板などといったツールには無かった、より積極的なアプローチ方法といえるのではないでしょうか。
従来の音声ガイドやその他案内ツール(パンフレットや看板など)では、来場者の「知りたい」という思いの受け皿にはなれていたかもしれませんが、今回泉岳寺が抱えていた悩みのように、施設側の「ここを見てほしい・これを知ってほしい」という意図を実現していたとは言えませんでした。今回のような、一歩踏み込んだ『新しい楽しみ方の提案』というアプローチは、来場者の「知りたい」という欲求と施設側の「知ってほしい」という意図との溝を繋ぐ架け橋となるのではないでしょうか。また、そういったアプローチから施設自体に新たな魅力が生まれる、そう考えてしまうのはさすがに想像が膨らみ過ぎでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は、泉岳寺さまを取材させていただき、感染症対策としてスマホ音声ガイドの利点を知ると同時に、利用者が利用しやすい音声ガイドのあり方や、より積極的な音声ガイド活用の可能性を感じることができました。
コロナ禍において様々な分野で文化や技術の革新が始まっていますが、音声ガイドの世界でも、新しい時代への脱皮は始まっています。
今後どのような方向へとスマホ音声ガイドの世界が開けていくのか、今から楽しみでなりません。