「とんぼのめがねは みずいろめがね」
江戸時代、青地に白い小花模様をあしらったガラス玉をとんぼの複眼に見立てたことからその名がついたという「とんぼ玉」。
他にも形状や模様に合わせて「筋玉」や「蜜柑玉」などという名称もあったそうですが、現在ではそういった“穴のあいたガラスの装飾玉”を総じて「とんぼ玉」と呼ぶようになったのだそうです。
そんなとんぼ玉をはじめとした、古代エジプトから現代に至るまでランプワークという技法によって作られたガラス工芸作品を約2000点展示している世界で唯一の美術館。それが、KOBEとんぼ玉ミュージアムです。
今回は2021年1月に導入されたミュージアムガイドのスマホ音声ガイドについてと、導入にあたって活用された神戸市の補助金について、館長の宮本恭庸さんに伺うことができました。
ミュージアムガイド
・スマホ音声ガイド部門でNo.1
・月額18,000円~の格安価格
・サンプルは最短2日で制作
今ならサンプルサイトの制作無料
1.音声ガイド導入のきっかけは?
2005年に私設美術館としてスタートした、KOBEとんぼ玉ミュージアム。
開館以来、一般の来館者へ向けた作品紹介やとんぼ玉の制作体験・ショップの運営などをする一方で、作家同士の交流や技術の向上を目的としたイベントの開催、書籍の出版など、ランプワークの魅力を広く発信し続けています。
また、神戸の中心駅である三ノ宮駅から徒歩8分という立地の良さもあってか、こちらのミュージアムはガラス工芸に関心の深い人から初心者・観光客まで幅広い層が足を運ぶ人気スポットとなっています。
しかしそんなミュージアムにも、ある悩みがあったそうです。
現在、ミュージアムのスタッフは5名。
受付や制作体験・ミュージアムショップの運営など、様々な業務をこの5名のスタッフがシフトを組んで対応しているので、一人ひとりの来館者へはなかなか手が回りません。そのことが宮本さんにはずっと気掛かりだったと言います。
しかしミュージアム単独で収支を合わせて運営している都合もあり、収益に直結するわけではないソフト面の充実といったものは後回しになっていたところがあります。
そうした色々な取り組みを、この機会にできればと思いました。
音声ガイドの制作もその一環だったということですね。
ちなみに今回申請された補助金の概要と補助金を活用して制作したものは、次の通り。
▼神戸市内中小企業チャレンジ支援補助金 概要
対象 | 神戸市内の中小企業および個人事業主 |
上限金額・助成額 | 100万円 |
補助率 | 対象経費の4分の3 |
実施 | 神戸市 |
申請期間 | 2020年6月8~19日 |
▼補助金を申請した制作物
・ミュージアムのwebサイトの2カ国語化(日英)
・展示パネルと館内表示の2カ国語化リニューアル(日英)
・英語版リーフレットの制作
・2カ国語対応の音声ガイド制作(日英)
2.どのような音声ガイドができたのか?
それではKOBEとんぼ玉ミュージアムに導入された、スマホ音声ガイドの特長を見てみましょう。
視聴方法 | スマホ音声ガイド(ブラウザ型) |
対応言語 | 2言語(日本語・英語) |
表示 | 画像・テキスト・音声 |
掲載数 | 37コンテンツ |
利用料金 | 無料 |
ご案内方法 | 入口にてスタッフがご案内 また対応コンテンツの展示パネルへ音声ガイドマークを表示 |
2-1.音声ガイドの構成
音声ガイドのシステムは、来館者が自身のスマホで聴くブラウザ型のスマホ音声ガイドです。
全部で37あるコンテンツの内、前半の15コンテンツがとんぼ玉やランプワークの歴史と技法・種類についての紹介、後半の22コンテンツがランプワーク作家や作品についての紹介となっています。
—— この構成にはなにか理由があったのでしょうか?
(宮本さん)ランプワークには紀元前15世紀から3500年に及ぶ歴史があり、また今人気となっている技法などもあります。しかし一般にはとんぼ玉というもの自体があまり知られていませんし、ランプワークという言葉も馴染みがありません。そういった中で、より広く知っていただけるようにという狙いです。—— なるほど。「ランプワークとは何か?」という初歩的な説明から始め、少しずつ丁寧に解説を重ねていくことで、とんぼ玉やランプワーク作品全体についての理解をムリなく深めていき、またその流れの先にある個々の作品についての興味・関心へとスムーズに繋げていく、ということですね。
余談ですが、筆者はとある展示会で作品解説を聴いたところ「この作品は〇〇技法で作られた▲▲構造が特徴で~」と説明が始まったのですが、そもそも〇〇技法も▲▲構造も何のことか分からなかったので結局“用語を検索しながら音声ガイドを聴く”という本末転倒な経験をしたことがあります。それを思うと、こうした心遣いは大変ありがたいご配慮です。
閑話休題
2-2.対応言語について
—— 今回の音声ガイドは日本語と英語の2カ国語対応となっていますが、その理由について教えてください。
(宮本さん)限られた予算の中で、まずは英語を選択しました。インバウンドという意味では京都や大阪と比べてそれほど多くはないですが、作家さんの中には欧米系の方もいらっしゃいます。またアジア圏の方も大半は英語をご理解されていると思いますので。
—— まずは英語から、となったということですね。そうしますと、今後さらなる多言語化もお考えですか?
(宮本さん)日英2カ国語対応の音声ガイドをリリースした後、中国語と韓国語の追加を検討しましたが、その際に検討した別の補助金の申請は採択されませんでした。新型コロナの影響もあり、来館者数もまだ以前の何割かに留まっている中、独自に十分な予算をとって作っていくのは難しいです。—— では、今後また多言語化対応の為に使える助成金なり補助金があった際には、ということでしょうか。
(宮本さん)そうですね。よほどインバウンドの比率が高まって「英語以外の言語を用意しなければ対応しきれない」という状況になれば別ですけれど、それが無いとなかなか動機にはならないですね。2-3.音声ガイド制作でこだわったポイント
—— 音声ガイドの制作をする中で、こだわったポイントや難しかったところなどはどんなところでしたか?
(宮本さん)「手に取ってみたい、聴いてみたい」と思ってもらう為の項目の設定やタイトルなどは考えました。—— 今回の原稿は全て宮本さんがお書きになったとお聞きしましたが?
(宮本さん)原稿は全て私が書きましたが、結構大変でした。笑これまでに発行した書籍は主にランプワークの作り手向けに技法などを紹介する内容だったので、とんぼ玉やランプワークの歴史について書いたものはありませんでした。ですから原稿は、ほぼ書下ろしです。
—— 来館者に「聴いてみたい」と思わせる工夫。コンテンツの選択や切り口、タイトルやキーワード選びなどは音声ガイド作りの肝ですからね。全部お一人でとなると、本当に大変な作業だったと思います。
その他に来館者の「聴いてみたい」を引き出す為に工夫されたことなどはありますか?
パネルを見て「音声ガイドでもっと詳しく聴けるんだ」と気付いていただき、そこから音声ガイドの視聴に繋げるという形です。そのため音声ガイドの内容はより深い解説になるようにしています。
入館時にも音声ガイドのご案内はしていますが、館内でパネルを見られてから音声ガイドを読み取る為に入口まで戻って来られる方も結構いらっしゃいます。
—— そうした工夫をすることで、ランプワークに高い関心を持った来館者のニーズに応えているのですね。
またこの方法は『KOBE観光スマートパスポート』を利用した「ちょっと寄ってみた」という感覚の方や付き添いで来られた方にも、興味を持ってもらうきっかけになりそうです。
(註)KOBE観光スマートパスポート…神戸観光局が実施している観光パスポート。対象施設が巡り放題の定額サービスのこと。
2-4.来館者の反応は?
—— 音声ガイドの導入からまもなく2年が経ちますが、来館者の方の反応はいかがでしょうか?
(宮本さん)有料で提供されることが多い音声ガイドを無料で、しかも自分のスマホで聴ける、ということに驚かれる方は結構いらっしゃいます。—— 大型観光施設や企画展などでは入館料とは別に有料で提供しているところが多いですからね。音声ガイドを無料で提供しよう、というのはどのようなお考えからでしょうか?
(宮本さん)うちは小さな館ですのでスペースには限りがあります。入館料をいただいて「どれだけ満足度を高めていけるか」ということを考えなければならない中で、その方法は収蔵品・展示作品の充実とそれに伴う付加価値をどう付けていくかということに尽きます。その中の方法の1つとしての音声ガイドですので、無料でご利用いただいています。—— オプションとして増やすのではなく、基本メニューの中に盛り込むことで観覧体験全体の質を高めようという発想なのですね。
2-5.音声ガイド導入後の課題
—— 音声ガイドを導入されてから感じた問題点や困っていることなどはありますか?
(宮本さん)若い方でなければイヤホンをお持ちでない方もいらっしゃるので、イヤホンの販売もしようかなと思ったんですけれど、そこまではまだ手付かずです。—— そうなのですね。確かにスマホで音楽や動画を楽しむ人は増えましたが、まだまだイヤホンを持ち歩かないという方もいらっしゃると思います。
施設によっては100円程度の使い捨てイヤホンを販売しているところもありますが、在庫やイヤホン端子の形状など、いろいろと検討しなければいけないことがありそうですね。
スマホで聴く音声ガイドの場合、音声の再生時には通話時と同じように再生音量を小さく設定することで周囲への音漏れをある程度防ぐことができます。しかし施設によってはイヤホン必須としているところもあります。
また利用する側の意識の問題として、美術館の中で電話を耳に当てているポーズが傍目には通話しているようにも見えることから、心理的にイヤホンなしでの利用に抵抗を覚えるユーザーもいるかもしれません。
いずれにしても、イヤホンの有無については何らかのフォローを考える必要はありそうです。
—— そうしますと、イヤホンが無い方のご利用はないのでしょうか?
(宮本さん)「音声ガイド」とはしていますが、スマホでテキストだけご覧になる方もそこそこいらっしゃいます。そこで「イヤホンがあれば音声で。テキスト解説だけでもご覧いただけます」と—— 「イヤホンが無いから音声が聴けない」のではなく「テキストでも読めますが、イヤホンがあれば音声でも聴ける」ということですね。うーん、逆転の発想ですね!
3.補助金の申請について
3-1.難しそうなイメージですが
—— ではここからは補助金の申請手続きや流れについて教えてください。
まず、補助金の申請というと手続が煩雑なイメージがあるのですが、振り返ってみていかがでしたでしょうか?
今回宮本さんが申請されたのは、神戸市内中小企業チャレンジ支援補助金という制度でした。
上限金額は100万円、補助率は対象経費の4分の3のというこの補助金ですが、対象となる事業や経費に区分を設けていました。
▼補助対象事業の区分
補助対象事業の区分 | 例 |
(1)事業継続のための新たな取り組み | 飲食店が宅配事業を行う。居酒屋が昼間の時間を活用して弁当販売を行う 等 |
(2)販路開拓のための新たな取り組み | 衣料品店や観光業(お土産)がインターネットでの電子商取引を行う 等 |
(3)新商品・新サービスの開発 | 宿泊業が自社サイトの多言語化やテレワークプランを提供する。製造業が新製品の開発に取り組む 等 |
(4)社員の働き方改革を推進し、経営改善を行う新たな取り組み | テレワークを導入する 等 |
▼対象経費の区分
①設備備品等購入費 | 新たな取り組みで必要な設備・備品の購入、新製品開発に係る原材料及び機械装置等購入費、感染防止対策のための設備・備品の購入費 等(仕入れにかかる材料等のランニングコストは対象外) |
②建物改修費 | 新たな取り組みのための店舗改修費、感染防止対策のための換気設備の設置工事費 等 |
③外注経費 | ECサイトへの登録料、ウェブサイト構築費、自社サイトの多言語化に係る外注費 等(通信費などのランニングコストは対象外) |
④専門家相談経費 | 外部コンサルティング費用 等 |
⑤広報費 | 新たな取り組みのためのPRツール制作費や広告掲載費 等 |
⑥その他経費 | 宅配代行サービス利用に係る初期登録料 等(手数料などのランニングコストは対象外) |
今回宮本さんが補助金での制作・リニューアルを申請した物は、音声ガイドやwebサイト・展示パネル・リーフレットでした。これらは上記の対象事業・対象経費の区分では全て(3)新商品・新サービスの開発、③外注経費として申請し採択されたそうです。
—— 申請の際には事業計画書と収支予算書の添付が必須だったそうですね。私などどのように書いたらいいのかすら分からないのですが、こういった書類はあらかじめ市役所の方で書式を用意してくれていたりするのでしょうか?難しくて相談に通ったり、なんてことはありませんでしたか?
(宮本さん)どちらも規定の書式があり、それに沿って記入しました。特に窓口等で相談することもありませんでした。新型コロナ対策として急いで立ち上がった補助金ということで、比較的通りそうだという感覚が皆さんあったのか、申し込みは殺到したようです。市も多めに予算を付けていたみたいですが、それ以上に申込みがあったようで予算を増額していたようですね。
通年で募集しているようなものや、もっと額の大きな補助金であれば、書類も多くなるし審査も厳しくなるのではないでしょうか
—— やはり規模と難度とは比例するのですね。
補助金の規模と審査の難度とを考えると、開発に予算がかかるアプリ型の音声ガイドよりもブラウザ型の音声ガイドの方が審査のハードルも低く、補助金や助成金との相性が良いと言えそうです。
3-2.補助金の申請から交付までの流れ
—— 補助金を申請してから交付されるまではどの程度の期間がかかるのでしょうか?
(宮本さん)今回の補助金の場合だと令和2年6月に申請して、9月に交付決定の通知があり、1月末に音声ガイドのリリースと実績報告、3月末に補助金の交付といった流れです。制作費用については一度立て替えになっていますね。—— 申請から交付の決定までが約3か月。その後リリースまでの制作期間で約4か月。その後、補助金の支払いまでが約2か月のトータルでおよそ9か月のプロジェクトだったのですね。
一般的な音声ガイドの制作スケジュールでは、項目の選定から原稿の作成、音声の収録、掲載する画像の手配、展示配置との調整を行うと概ね2~3か月掛かります。今回の補助金はその点から見ても丁度よいスケジュール感だったと言えそうです。
4.メッセージ
—— 今回の経験を踏まえて、読者の皆さんに向けたメッセージをいただけますか?
(宮本さん)開館以来の古い仕組みのままといった施設もたくさんあります。補助金の存在や多言語化の必要性など、やはり “きっかけ”が大事なんじゃないかなと思います。
音声ガイドは一旦導入すればずっとプラスになり続ける、来館者のみなさんへの付加価値の一つとしてアピールできるものだと思っています。
—— 宮本さん、今回は貴重なお話をありがとうございました!
5.まとめ
いかがだったでしょうか。
ユーザーを惹きつける工夫や付加価値の付け方(盛り込むのか上乗せするのか)、イヤホンの有無などといったスマホ音声ガイドならではの課題などなど、気付きや今後の課題となるお話の多いインタビューとなりました。
補助金についてはどうやらブラウザ型との相性が良さそうですが、宮本さんも仰っていた通り、その規模や制度の性格によっても難度が変わりますし、どのような補助金・助成金制度があるのかは都道府県・市町村によっても異なります。
さて皆さんは、そんな補助金・助成金についての相談を音声ガイドの制作会社が受けていることをご存じでしょうか?
こういった制作会社では仕事柄、補助金や助成金制度の情報も収集しています。
いわゆる代行業者ではありませんので、音声ガイドの新規導入やリニューアル・維持管理費の見直しなどと併せてお気軽にご相談してみてはいかがでしょうか?
本稿が何かの“きっかけ”となれば幸いです。