観光DXの推進と音声ガイド

観光庁が2021年に本格的な推進を始めた観光DX(デジタルトランスフォーメーション)。
この流れを受け、音声ガイドの制作現場においても「観光DXの一環として~」と耳にすることも増えてきました。
そこで今回は、観光DXとは何かを改めて見直しつつ、音声ガイドとの関係や今後の可能性についても考えてみたいと思います。

近年求められる 音声ガイドの新しいカタチ

観光DXが推進される中で、音声ガイドにさまざまな技術や機能を掛け合わせた”新しいカタチ”を求める声が多くなりました。
代表的な例を挙げてみましょう。

近年求められる音声ガイド+別技術の類型

新しい音声ガイドのカタチ = 観光DX という誤解

音声ガイドに求められる新しいカタチは、確かに利便性や生産性を向上させ、新たな体験を提供するワクワクする内容ですが、これ自体が観光DXというわけではありません。
新しいカタチに目を奪われた結果としてその本質を見失っては、それはただの便利な音声ガイドに過ぎなくなってしまいます。
こうした誤解や認識から発生する悲劇を起こさないためにも、まずは観光DXとは何なのか、再確認してみましょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

観光DXを確認する前に、その前提であるDXからおさらいしてみましょう。
DXとはもともと「情報技術よって起こる社会の変革が生活を豊かにする」という概念のことをいいます。

身近な例として、タクシーの配車サービスを見てみましょう。
従来、タクシーは街中やタクシー乗り場で捕まえるか、またはタクシー会社に電話をかけて指定の住所を伝え、迎車してもらうのが当たり前でした。
しかし配車アプリが登場すると、利用者は地図情報やGPS機能を使ってタクシーを指定の場所へ呼ぶことができるようになり、タクシー側の集客も効率化されるようになりました。

これは、地図情報・位置情報・空車情報をネットワークで一括管理・マッチングすること(情報技術)によって、タクシーに乗るという一連の仕組みが変わり(社会の変革)、その結果として利用者・業者双方が便利に(豊かに)なったといえます。
この一連の流れが、DX化という現象です。

観光庁が目指す観光DX」

これを踏まえて、観光庁が提唱する観光DXとは何かを見てみましょう。

観光庁webサイト:観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

観光庁のサイトにはいろいろと難しい言い回しやカタカナ語が並んでいますが、その目的を一言で表すと「稼ぎ続ける地域であり続けること」であり、その実現手段としてDXを活用しようという考え方が「観光DX」であることが分かります。

その特徴は以下の3つにまとめることができそうです。
①データの活用サイクルを回し続けることを原動力としている
②地域が一体となって取り組むことでスケールメリットを活かし、結果もまた全体へ還元する
③目的が「稼ぐこと」(=収益性・地域経済の持続と活性化)と明確である

観光DXの全体像

地域規模で取り組まれる観光DXとは、1つの技術・仕組み・DX化だけで成立するものではなく、それらがさまざまな規模(地域全体・各団体・各事業者など)で導入・連携することが想定されており実に複雑です。
そこで今回はデータの流れに着目することで、その全体像をシンプルに掴んでおきたいと思います。
すると観光DXの全体のイメージが、地域全体で行うデータの収集、集約、分析、共有の繰り返しであることが見えくるかと思います。

観光DXが取り組む4つの柱

それでは具体的にどのようにして観光DXを推進していくのか、その取り組みについて見てみたいと思います。観光庁ではこの取り組みを4つに分けて考えています。

1 旅行者の利便性向上・周遊促進
2 観光産業の生産性向上
3 観光地経営の高度化
4 観光デジタル人材の育成・活用

1 旅行者の利便性向上・周遊促進

これはタイムリーな情報提供とスムーズな予約・決済手続き(=シームレス化)を実現し、より便利に・分かり易くすることで旅行者の活動を活性化し、観光地での消費拡大につなげることを目的としています。
例えば

2 観光産業の生産性向上

宿泊施設が持つデータを収集しエリア全体で共有することで、人的・物的コストの削減やレベニューマネジメント(=需要に合わせて価格を変動させる)を行うなど、エリア全体の生産性と収益性の向上につなげることを目的としています。
例えば

3 観光地経営の高度化

これはエリア全体を1つの観光地(=組織)として捉え、1つの巨大なデータベース(DMP)を構築・運用するとともに、自治体や観光地域づくり法人(DMO)が旗振り役となって、このデータベースを活用した最適なマーケティングや各種観光施策に地域一体で取り組むことでその効果を最大化し、観光地全体が”稼げる地域”となることを目的としています。

Tips: 観光地域づくり法人(DMO)とは

地方自治体と連携した観光地域づくりを行う団体のことで、エリア全体を1つの組織と見立てた観光地経営という観点から、全体のマーケティング・プロモーション戦略や目標設定などを行う司令塔的な存在。
地方公共団体や各事業者、施設運営者、地域住民など関係者の合意を形成することや地域全体に関わる取り組み(マーケティング分析やインフラ整備の推進)を担う。

4 観光デジタル人材の育成・活用

新たな人材の育成や専門知識や経験を活かした人材の登用などを通して、上記3つを含む観光DXの推進と観光地域づくりが持続・発展することを目的としています。

音声ガイドと観光DXは親和性が高い

観光DXの目的や仕組みを確認ところで、改めて音声ガイドとの関わりについて考えてみます。
まず始めに「音声ガイドはそれだけで観光DXへ活用でき、本来他の技術との組み合わせは必要ない」という点を押さえておきたいと思います。

「新しい機能や技術はいらないの?」と思う方もいるかもしれません。
しかし観光DXとは何かを踏まえて音声ガイドについて考えると、本当に必要なことは何なのかが見えてきます。

音声ガイドは既にDX化を終えている

現在国内に存在するほぼすべての音声ガイドはデジタル化を完了(音声データ、テキストデータ、画像データ)しており、これを再生する仕組みとなっています。

これは従来の「スタッフが来場者に随行して解説する」という仕組みを変革して、施設側の業務を効率化し、来場者に自身のペースで楽しむ自由の提供と均一なサービスの保証を実現することで私たちの生活を豊かにしています。
即ち、音声ガイドという分野は既にDX化を終えているのです。

② 観光DXとは目的がそもそも同じ

音声ガイドの目的にはいくつかありますが、「説明員の代替」や「展示体験の充実による付加価値の創造」、「コンテンツの有料化による新規収入源の獲得」などはすべて生産性の向上を目的としており、この点で音声ガイドと観光DXが掲げる目的は合致しています。
その為わざわざ観光DXに沿った活用方法などを検討する必要もなく、音声ガイドをシンプルに運用すれば良い、ということになります。

③ データの循環サイクルを意識するだけ

となれば、後は運用さえ間違えなければ良いだけです。
音声ガイドもまた地域のデータ循環の環の中にあることを意識し続けてさえいれば、観光DXのサイクルは回り続けます。

観光コンテンツ(展示施設・イベント等)に対する旅行者の利用データを収集し、データベースへ集約、そこから得られたデータや地域全体のマーケティング・観光施策を音声ガイドの内容への反映、そしてまたデータを収集する…この繰り返しとなります。

このように、音声ガイドは単独でも観光DXを推進するコンテンツとしての要件を満たしており、その効果を得ることができます。
重要なのはどのように運用するかであり、データ循環のサイクルを意識しなければどれほど便利な技術との組み合わせや新技術を導入しても、観光DXの推進とはなりません。
折角の取組みが”ただの便利な音声ガイド”にならないように、注意が必要です。

もしまだ導入していなければ、音声ガイドを導入すること。
既に音声ガイドを導入していれば、データを活用してその内容を見直すこと。
それだけで観光DXへの取り組みをスタートすることができるのです。

音声ガイドの可能性

さて、最後に観光DXの中にある音声ガイドの可能性について考えてみたいと思います。

マーケット的には、観光DX推進の動きによって各種補助金や助成金が設立されるとともに、業務の効率化・収益性の向上という観点からも、音声ガイドという分野への注目度は高まっています。
注目が高まることによってこれまで音声ガイドの導入を検討していなかった層(業種・規模)へもその裾野は広がりを見せており、観光DXのサイクルがキチンと機能し続ける限り、音声ガイドマーケットの需要は継続していくように思われます。

一方、内容面においても成熟が期待できます。
観光DXによるマーケティングやデータベースから得られたユーザーの興味関心がコンテンツへと反映されることは、コンテンツとしての音声ガイドの質の向上に繋がると予想できます。

観光客を置き去りにした内容や、ただ教科書を読み上げているような音声ガイドは姿を消し、よりユーザーに興味を持たれ、利用される方向へと進んでいくことが期待されます。

いずれにせよ、音声ガイドの制作に関わる者としては、情報更新されない(観光DXのサイクルから外れる)という結末になること無く、観光地域ともども音声ガイドも継続・発展していって欲しいと願ってやみません。

おわりに

いかがだったでしょうか。
要点さえ押さえておけば、音声ガイドを活用した観光DXの促進は決して難しい内容ではありません。

そうは言ってもお金が無い......そんなあなたに朗報です。
音声ガイドの制作を経済面から助ける方法には、政府自治体による補助金・助成金以外にもレベニューシェア(コンテンツから得る収益を還元することで初期費用を抑える)という方法もあります。制作の段階から生産性・収益性を重視した音声ガイドづくりはいかがでしょうか?

新規制作・見直し・レベニューシェアなど音声ガイドについてのお問い合わせは、ぜひMUSEUM Guideまでご相談ください。

観光立国への機運に乗りつつ、新たなチャンスを掴みに行きましょう。